つみびとの歌

中原中也

『山羊の歌』より

阿部六郎 *1

わが生は、下手な植木師らに
あまりに夙はやく、手に入れられた悲しさよ!
由来わが血の大方は
頭にのぼり、煮え返り、滾り泡だつ。

おちつきがなく、あせり心地に、
つねに下界に索もとめんとする。
その行いは愚かで、
その考えは分かち難い。

かくてこのあわれなる木は、
粗硬な樹皮を、空と風とに、
心はたえず、追惜*2のおもいに沈み、

懶惰*3にして、とぎれとぎれの仕草をもち、
人にむかっては心弱く、諂いがちに、かくて
われにもない、愚事のかぎりを仕出来してしまう。

*1 阿部六郎:(1904〜1957)山形市生まれの独文学者、文芸評論家。<白痴群>の同人。
*2 追惜(ついせき):死後その人をいたみおしむこと。
*3 懶惰(らんだ):怠け者で弱虫であること。

中原中也の詩