早春の風

中原中也

『在りし日の歌』より

きょう一日(ひとひ)また金の風
大きい風には銀の鈴
きょう一日また金の風

女王の冠さながらに
卓の前には腰を掛け
かびろき窓にむかいます

外吹く風は金の風
大きい風には銀の鈴
きょう一日また金の風

枯草の音のかなしくて
煙は空に身をすさび
日影たのしく身を(なよ)*1

鳶色(とびいろ)*2の土かおるれば
物干竿は空に往き
登る坂道なごめども

青き女の(あぎと)*3かと
岡に梢のとげとげし
今日一日また金の風……

*1 嫋ぶ(なよぶ):風流めく。好きがましくする。
*2 鳶色(とびいろ):鳶の羽色。茶褐色。
*3 顎(あぎと):あご。

中原中也の詩